AIのべりすと文学賞のこと
AIのべりすとは、日本語処理AIでは最大級のパラメータと大量のコーパスによる訓練によって生まれた文章ジェネレータです。出力傾向をプリセットの選択やパラメータの変更である程度調整できますし、特定のテーマや作家のスタイルに寄せることができる
MOD機能を搭載しています。関連サービスとしてテキストからイラストを生成する
とりんさまアートの開発も進んでいるようです。
まずは、AIのべりすとがどんな文章を生成するのか、実際に使って確かめてみましょう。たとえば、今日のアマネイメージズを使うと、
土手を駆け上がって向こう側を見下ろしたマヤは、同行していたサナに聞こえるように大きな声で喚いた。身体が弱いサナも、彼女の後をついて少しずつ階段を上っていく。頂上までの石段はところどころが欠けているばかりか、塩にやられて全体的に脆くなっている。気を付けないと足を踏み外しそうだなと、マヤは少し後ろを盗み見た。
という冒頭の文章から、
「……っ!」
その瞬間、彼女は思わず息を呑んだ。ちょうど、彼女が振り向くのと同時に、視界の端で何かが動いたのだ。視線を向けた先に居たのは、白い服を着て長い髪をした少女だった。顔立ちからして、年齢はおそらく十代半ばだろう。だが、この状況下で明らかに異常な行動を取っている以上、警戒しないわけにはいかない。マヤは咄嵯に腰に差していた剣を抜き放ち、切先を彼女に突き付けた。
しかし――「……え?」
マヤはその光景を見て、唖然とした。目の前の少女は両手を上げて無抵抗の姿勢を示したかと思うと、そのまま地面に崩れ落ちたからだ。どう見ても戦意はない。いやそもそも、こんな場所で戦いになるはずがないではないか。
「……」
マヤはすぐに剣を収めると、倒れ伏す少女の元へと歩み寄った。近づいてみると、その顔はよく見知ったものだった。
という続きの文章が生成されます。特に調整せず投げっぱなしなので、新しい仲間や想定してない武器が出てきていますね。何度か試すと、突然森の中にいたり、デカい岩に閉じ込められていた回もありました。アマネイメージズのコーナーは、提示した写真を使って同じ舞台で胡乱な話を繰り返すことが多いので、ちゃんとストーリーを進めようとするスタイルとは相性がよくなかったかもしれません。
こんな感じで、冒頭を渡してポチポチ押してるだけで最高の小説が完成するわけではなく、泥臭い調整と乱数の厳選を繰り返す必要がありそうです。つまり、楽に文章を出力するためのツールというより、ストーリーの構築に仕事を振り替えるためのツールといえるでしょう。
小説を書く人の中には「ストーリーは考えておくから誰か文章にしておいてくれ!」と思ったことのある人もいるかもしれません。AIのべりすとなら、書き出しさえ思いつけばとりあえず文章を前に進めることができます。生成された文章が意図しない方向を向いていたら、少し戻してから加筆してやり直せばいいのです。単に文章を書くタスクがストーリーを調整するタスクにすり変わっただけにも見えますが、ストーリーを伝えるために小説を書いているなら、より本質的な仕事に近づいたと考えることもできます。
一方で、AIのべりすと文学賞は「ストーリーは考えておくから誰か文章にしておいてくれ!」という発想を
強制 する取り組みでもあります。これは
ソナーズのリリースによせて、感想のことで述べたような、小説の構成要素である「全体的なストーリーの面白さ」と「局所的な表現技法の巧拙」から後者のみを排除するものです。この新たなルール設定が有利に働くか不利に働くかは、書く人の目的や能力の傾向によるでしょう。
文章だけではなく、イラストや音楽の分野でもAIによる自動生成技術が発展してきています。しかし、その本質は必ずしも労力を削減できるという部分にはなく、局所的な表現技法の巧拙を度外視して、自らの創造的な面をより深く掘り下げることを求められる部分にあるのかもしれません。みなさんも、自分の中のストーリーに向き合いながら、第1回
AIのべりすと文学賞に挑戦してみてはいかがでしょうか。