あまねけ!ニュースレター #39

September 27, 2022

こんにちは、あまねです。

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人間と科学

文フリ東京35の決起集会をしたこと

先週の9月19日、文学フリマ東京35で発行予定の合同誌やポスター展示企画に参加を表明している人々を募って、決起集会を行いました。

決起集会とは? ごく簡単に言えば、執筆・制作予定者が物理的に集まって親睦を深めるための会合です。前回の第三十四回文学フリマ東京でも、合同誌のテーマ 通貨・貨幣 の下で同様の会を行っており、#25でその様子を伝えています。

今回の合同誌・ポスター企画のテーマは 写真 です。アナログな銀塩写真はもちろん、プリンターで出力したインクジェット写真や、物理的なかたちをとらないデータでさえも写真と呼ぶことができるでしょう。さらに、これらの景色を写すツールとなるカメラも、フィルムカメラやデジタルカメラだけではなく、人物や背景に美しく精細な加工を施すスマホカメラなど様々です。

というわけで、今回は写真っぽさ・カメラっぽさを求めて以下の施設を周遊しました。

これらの見学の途中に、文フリ東京35で展開する予定の企画について紹介したり、執筆予定の内容について共有する小休止が入っています。カメラについては比較的古い歴史を辿る内容が多く、一方で写真についてはより新しく現代的な表現がメインでした。

日本カメラ博物館は、半蔵門駅から徒歩1分の好アクセスと、入場料300円というお手頃価格には十分な資料の多さが光る穴場です。ただし、館内は写真撮影禁止なので、気になった資料はスケッチや記憶に残すしかない点が少しマイナスかもしれません。

日本カメラ博物館 JCII Camera Museum:特別展「すごい!たのしい!ちょっとヘン?! 〇〇なカメラ大集合」
日本カメラ博物館 JCII Camera Museum:特別展「すごい!たのしい!ちょっとヘン?! 〇〇なカメラ大集合」

日本カメラ博物館(館長 谷野 啓)では、2022年6月28日(火)から10月16日(日)まで、特別展「すごい!たのしい!ちょっとヘン?!〇〇なカメラ大集合」を開催します。

上記の特別展では、かつてスパイや記者が使っていたというステッキや時計に擬態した小型カメラや、フィルムの小型化・量産化の中で生まれたカラフルでオリジナリティあふれる形のカメラなどを見ることができます。

歯車上のプレートの周囲にフィルムを配置するディスクフィルムによるカメラの薄型化や、2インチフロッピーに記録するビデオカメラ「マビカ(試作機)」は、まるで古いSF作品のグッズを見ているようです。ラジオにカメラを載せた製品がそこそこ展示されていましたが、今まさにスマホでできることなのが面白いですね。

東京都写真美術館は、カメラの歴史や構造についての展示ではなく、写真や映像の美術性・芸術性に注目した企画展や映像作品の上映を行う美術館です。今回は以下の3つの展覧会を見学しました。

おすすめは「イメージ・メイキングを分解する」です。「ルスカの部屋」は、緑色のレーザー光を左上から右下へ走らせ、その光の反射で像を結ぶ走査型電子顕微鏡のような レンズのないカメラ を原寸大で体験できる作品です。動いている物の像や凸レンズを通した像が特徴的で、何度でも見ていられます。

「想像のカメラ」では、今ならまるでStable Diffusionが吐き出しそうな「あり得たかもしれない」メカニックを備えたカメラのデザインをたくさん見ることができます。少し違う未来では、私たちはもっと複雑で奇妙な機械で目の前の景色を切り取っていたのかもしれません。

白い床に置かれた未来の機械式カメラ、カタログ写真風で
白い床に置かれた未来の機械式カメラ、カタログ写真風で

文フリ東京35では、これらの素敵な経験を活かした作品や、そうでない作品がたくさん読めるようになる予定です。10/10(スポーツの日)に寄稿者ミーティング②を行う予定なので、興味があればかたぎりあまねに連絡するか、Matrixのサークルスペース #hentaigirls:matrix.amane.moe に参加してください!

アマネイメージズ

砂を泳ぐ魚
砂を泳ぐ魚

北浜(と先輩が呼んでいた)に着く頃には、すっかり日が傾いて海風が弱くなっていた。肌寒い夜に覆われる前の潮だまりのような時間が心地いい。

コンクリートの堤防を越えると、粒の揃った砂利浜にまるく磨かれた石がたくさん埋もれているのが目に入った。ひとつひとつの塊から長い影が伸びていて、じっと見つめると太陽に向かって這っているようにも感じられる。

左右を見渡しても、シーズン・オフの海水浴場には誰もいない。秋になったばかりの、しかも夕方の海なんて、今この瞬間には誰も覚えていられないだろう。先輩にもう少し計画性があれば、少しくらい波打ち際で遊べたのに。

「やっぱり、まだ早くないですか?」「何が?」「だって私たち、まだ大学生ですよ」

石を四つ分隔てて前を歩いていた先輩は、振り返って大きな声であははっと笑った。数時間前にラボで寝ていたときのゆったりした普段着のままで、まるで学食に行く途中みたいにリラックスした足取りで砂利を踏みしめる。

「まだ言ってるのか、牧島。きみの悠然さは筋金入りだなぁ」

「えーと……今日は練炭もガムテープも持ってませんけど」

「なに。七輪と一緒にトランクに積んであるから、問題ないよ」

芝居がかった口調では誤魔化しきれない物騒な返答に、えっ、と言葉に詰まってしまう。先輩の冗談は時折あらぬ方向から飛び出してきて、私はそういう不意打ちに弱かった。

手のひらを両手に向けておどけたポーズで固まってしまった私は、どうやら期待を超えて青ざめた表情になっていたらしく、先輩が取り繕うように「嘘だよ、嘘。検問に引っかかったら面倒だろう」と付け足す。

「わ、分かってますよ。先輩にそんな計画性あるわけないじゃないですか」

でも、あの無言の間から察するに、練炭セットを一式積んでるのは本当だろうな、と思った。

「そもそも、大学生なんて人生で一番弱くて壊れやすいんだから、急ぐ意味もないさ」

「だから、自分の墓石を?」

「最初からそう言ってるだろう」

要するに、先輩がここまで私を連れてきたのは、彼女の(先輩に言わせれば私たちの、だ)死に備えて墓石を選ぶためだったらしい。てっきり、ラボの簡易ベッドで海に行く夢でも見たのだと思っていた。そうでもなければ、飛び起きて突然「牧島。海で墓石を拾いに行こう!」なんて寝ぼけたことを言うわけがなかったから。

しかし、まぁ、先輩は本気で自分の墓標を探しに来たらしい。しかも、出会って半年も経たない無愛想な後輩をお供に。何年も連れ添ったパートナーのエンディングを無理やり後ろのチャプターから流し見ているような、どうも変な気分だった。

「いいよねぇ、海。私たちが帰る場所だよ」

「先輩はどんな石を選ぶんですか?」

「昔、庭に金魚のお墓を作ったことがあったが、あれは特に小さかったね。私のはもっと大きくて、真っ黒のがいい」

そう言うと、足元に横たわっていた一回り小さな石を取り上げてひとしきり眺めてから、今度はそれをお墓のように立てて砂に戻した。金魚と張り合うための墓石探しなら、もう少し気楽にやってもよさそうだ。先輩には、もっと大きな石のほうがいいと思うけど。

辺りがさらに薄暗くなって、夏か秋かも、昼か夜かも分からなくなる。手探りで砂利の中から石を掘り出して表面をなぞると、ひんやりと湿った冷たさが手に伝わって、砂底を泳ぐ魚を取り上げたようだった。ほんのり磯の香りが残って、本当に生きているみたい。

ふと前を見ると、ひときわ大きな黒い石を抱えた先輩が「石を選び終わったら、七輪で秋刀魚でも焼こうか」と言って、楽しそうに笑ってみせた。


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