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人間と科学
Matrixにおけるスタンプや絵文字のこと
SlackやDiscordなどで使用できるカスタム絵文字や、LINEやTelegramなどで利用できるステッカー(スタンプ)は、コミュニケーションをより簡便かつ円滑に進めるための重要な役割を担っています。特に、カスタム絵文字はワークスペースやサーバー単位で設定が閉じており、組織の雰囲気に統一感や一貫性を与えられる強力なツールです。
さて、Matrixでステッカーやカスタム絵文字を利用するには、主に2つの方法があります。
まずは、ほぼElement限定の手段ですが、IM(インテグレーションマネージャー)を通じてステッカーを利用できます。IMとは、ホームサーバーと協調して動作する独立のサービスであり、アカウントまたは部屋の単位でウィジェットやボットを追加・管理するためのものです。ステッカーピッカーはその機能の一つであり、クライアントと強力に連携してストレスなくステッカーを送れるようになります。
Elementに限れば、設定画面からIMを有効にしてステッカーピッカーを追加するのが最も簡単です。ただし、公式のビルドやWeb版ではIMとして scalar.vector.im
しか使えないため、オリジナルのステッカーは登録できません。また、他のサーバーに依拠することを強いられるという意味で、プライバシーや中央集権性への懸念が残ります。
そこで、2020年頃からMatrixの仕様として提案されているのがMSC2545: Image Packs (Emoticons & Stickers)です。主にレンダリングの詳細や画像の共有方法、適用スコープについて述べられています。こちらならステッカーだけではなくカスタム絵文字も利用できますし、内容はユーザーが自由に定義できます。さらに嬉しいことに、もはやIMも不要です。
MSC2545のステッカーピッカーは、現時点で主にFluffyChatやnhekoなどに実装されています(参考: This Week in Matrix 2021-07-23)。
ステッカーパックのインポートやエクスポートの機構はMSC2545の範囲外であり、これらのクライアントにもまだ実装されていません。代わりに、LINEやTelegramとは少し使い勝手が異なりますが、ステッカーを配布している部屋(例: #nico's-stickers:neko.dev
)から好きなステッカーパックを自分のアカウントに登録することができます。
ここで注目すべきなのは、MSC2545では画像の表示方法とステッカーパックの入手方法を分けて考えており、どのクライアントを利用しているかに関係なくステッカーやカスタム絵文字を表示できるという点です。ステッカーやカスタム絵文字は単にimgタグで表現されており、MSC2545ベースのステッカーピッカーを実装していなくても表示できます。
保存しておいた単なる画像をステッカーとして利用する手法は、LINEの文化圏では「オリジナルスタンプ画像」などの名前でよく知られています(例: LINEで使えるスタンプ画像ダウンロード:ITフェアリー シン&しん)。これは、LINEの公式ストアで販売するに至らなかった画像の集合を、あたかもスタンプのような使い勝手で取り扱うための足場の悪い抜け道です。
第4回百合文芸小説コンテスト(未完)に取り組んだこと
3月6日まで、第4回百合文芸小説コンテストが開催されていました。このコンテストは2018年から毎年開催されており、昨年の第3回百合文芸小説コンテストでは、僕も正妻と正妻に挟まれた私のお話!という作品を応募しています(落選)。
さて、今年も応募を目指して新作に取り組んでいたのですが、いくつかの事情と悪い条件が重なってしまって結局応募に至りませんでした。今回の敗因をふりかえり、反省点をまとめようと思います。
1. 取りかかりが遅かった
最大の原因はここで、しかも年々悪化している自覚があります。
今回のコンテストは応募開始が昨年11月29日であり、告知後から書き始めても3ヶ月以上の執筆期間がありました。そもそも、毎年同じ時期にこのコンテストが開催されていることを踏まえれば、この先の1年はまるまる次の応募に使えるわけです。大学受験や卒論みたいなものですね!
第3回ではなんとか応募までこぎ着けたものの、結局は締め切り3日前くらいから取り組んだ作品でしたし、第1回は今回と同様に道半ばで力尽きてしまった回です(第2回は就活や修論や引っ越しで忙しくパスしました)。今回に至っては、2ヶ月ほど温めていたアイデアを締め切り2日前に捨ててしまう暴挙の末の悲劇でした。
局所的には、締切1週間前に3回目のワクチン接種を受けてしばらく体調を崩していたという事情はあれど、3ヶ月、そして1年間というスパンを意識していれば、誤差のようなものだったでしょう。
いわゆる締め切り駆動執筆は効率が悪いですし、何より持続性がありません。具体的な対策が必要ですが、対策の考案にも締め切りがないのです!
2. ストーリー偏重の癖が出た
時間的に急いでいたり、省エネで作品を書こうとしたときによく出る癖です。キャラクター軽視、と言ってもいいのかもしれません。
例えば、このニュースレターのコーナー「アマネイメージズ」のようなシーンやモチーフが先に用意されている場合や、時間的余裕がない状態でストーリーラインのみ定めた場合に、キャラクターの掘り下げが不十分なままお話を書き始めてしまうことがあります。名付けるなら、シーン駆動執筆とでもいいましょうか。キャラクターについて深く考えないまま書き始めるという点で、時間を節約した省エネな書き方です。
当然、使うエネルギーに見合ったごく短い掌編などであれば問題ないでしょう。強力なキャラクターを描写する余地がなかったり、読者の想像力に任せるべき範囲が広くなりがちだからです。
問題は、長々と舞台設定や背景説明をしてストーリーを組み立てたはいいものの、書いているうちにどうもキャラクターに魅力がないと感じてしまうケースです。世界観やストーリーはなんとなく面白そうだけど、書いてみるとつまらない。あるいは、冒頭はよく書けていても後半の描写がどうも味気ない。このような状況に陥るのは、執筆にかけたエネルギーが作品に見合っていないのが原因だと考えています。
極端に言えば、省エネな執筆とは、事前に定めた各シーンにだけ専念すること、そしてキャラクターを描写する不要な寄り道を削ることです。その結果として、ストーリーラインは達成しているのになぜか味気なくてつまらない作品ができあがります。
3. 慣れないジャンルやシーンだった
今回はここも大きな障害でした。締め切り2日前に「面白そうだから」と組み立てたストーリーラインは、ある建物を制圧するまでの過程を描いたアクション+SFのような作品です。当然ながら、複雑な作戦や戦闘の描写が多くなってしまいます。これは無謀な挑戦でした。なぜなら、僕自身はそのような一瞬の動きと緊迫した空気を作品に取り入れて描写した経験が少ないからです。
長期的には、このようなシーンの描写を訓練して慣れるか、このような作品を描かないよう避けるか選ぶことができます。しかし、今回のように取りかかりが遅くてあまり多くのエネルギーをかけられない状況では、冷静に考えて撤退するしかありませんでした。
こうして3つの悪い癖や選択ミスが重なり、今回は応募を諦めることになりました。次はもうすこしがんばりましょう。
アマネイメージズ
「畑中は真面目だなぁ。いいんだよ、ポストの色なんてどうでも」
「そうはいきません。私の進級がかかってるんですから」
大学近くの小さいアパートから、先輩の車で408号線を南下してたっぷり三時間。海辺の街の青いポストの前で、私は小脇に抱えた長形三号の封筒に証拠写真を放り込むために、押し入れから引っ張り出してきたカメラを構えていた。
仏語実習の五十嵐先生が、単位を認めるには出席日数が明らかに足りない学生たちに課した救済措置。それは「最終レポートを青いポストから郵送すること」だった。最初に聞いたときは、行き先は伊豆大島か沖縄か、旅費はどこから出そうかと戦々恐々としていたけれど、陸路で行けるならこっちのものだ。
ピンク色の丸みを帯びたデザインのカメラからインスタントフィルムが吐き出されて、季節外れの暖かい風でぱたぱたと揺れる。端を指でつまんで引き出すと、少しずつ黒い面から青いポストのフルショットが浮かび上がってきた。
「ほら、先輩も祈ってください」
封筒を上から覗き込んで、一番手前に滑らせたポストの写真と規定枚数ぎりぎりのレポートに指をさす。フラップのテープを剥がして封を閉じると、やっと一仕事終えた感覚になった。
お賽銭がごとく厳かにレポートを差し入れてから、ポストに向かってぱんぱん、と手を叩く。青いポストに投函して得られるのは最終レポートの提出権だけだ。出席日数は最小限で計算されるとして、残りのレポートの点数が悪ければ結局は不合格になる。
それなら、私たちに今できるのは……祈ることだけ。
「はぁ……ここまで運転しただけで、もう十分祈ってあげたことにならない?」
そう言いながらも、先輩は私の横に立ってポストに向かって手を合わせる。そっと俯いて目を閉じる姿を見て、ふと初詣の日のことを思い出した。
「あ、そうだ! 私、いい場所を知ってるんです。カメラも持ってきたし、今から行きませんか?」
ポストへの礼拝を終えて顔を上げた先輩を、くいっと下から覗き込む。郵頼で済ませろとか、写真なんてSNSから持ってくればいいとか、ごちゃごちゃうるさい先輩を押さえて無理矢理車を出してもらったのは、もちろんこのためだ。
「私の運転で?」
「はい。私、運転できないので!」
「あー……そうだったね。じゃあ、仕方ないかな」
困ったように笑う先輩は、まるで予想外の提案だとでもいうようにわざとらしいため息をつく。大きく背伸びをしてから車に戻っていく先輩の背中を見ながら、私は根拠のない進級への自信と共に歩みを進めていた。