あまねけ!ニュースレター #19

February 01, 2022

こんにちは、あまねです。

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人間と科学

同人誌即売会と決済手段や仮想通貨のこと

最近、同人誌即売会におけるキャッシュレス決済の導入が急速な広がりを見せています。かつては、店舗を持たず売り上げもそう大きくない個人サークルがクレジットカードやSuicaの決済端末を導入するのは非常に難しく、ガジェット系の同人誌を出すサークルのようなマニア向けのオプションでした。しかし、Squareなどの柔軟な審査基準と安価で使いやすい決済端末の導入によって、必ずしもガジェットや決済手段に親しくないサークルでも、手間を掛けずにキャッシュレス決済を導入できるようになったというわけです。

また、同人誌即売会自身が決済手段をバンドルするケースも増えてきました。現地で開催される即売会であれば、コミックマーケットなどで利用できるCircle PAYや、技術書典における決済システムなど、ほとんどが商品に紐付いたQRコードを介した安価で簡易な形式の決済手段です。オンラインでの即売会なら、主催がクレジットカードやPayPal、PayPayなどを用いたオンライン決済を行える場を提供することで、より利便性を高めることができるでしょう。

さて、我々がキャッシュレス決済を導入して金銭を授受するという営みは、ほとんどの場合で私企業が間に入って行われます。つまり、キャッシュレス決済を導入した時点でいくつかの私企業への依存が生まれるのです。もちろん、同人誌を作ったり即売会に参加するだけで、無理に遡ればいくらでも私企業への依存を見つけることができますが、これらは代替可能性の面で大きく異なります。特に、クレジットカード業界を独占している数社が経済的検閲を行っていることについては無視できません。

ここで、依存自体は悪いことではない、と強調しておく必要があるでしょう。我々はできるだけ多くのことを自分自身で決定し、実行し、責任を持つ べき ですが、その程度さえ自分自身に任されています。たとえば、展示方法の創意工夫や決済・流通手段の選定を、自己表現ではなく同人誌制作を妨げる要素だと考える人もいるでしょう。その場合、即売会の開催者、委託先の同人ショップ、委託販売サイト、同人誌の印刷会社など、 面倒な ことを肩代わりしてくれる私企業への依存はむしろ効率化のための改善策といえます。

私企業に依存することへの問題は、我々が 正しく そして 健全な 作品を作っている限りは意識する必要がありません。しかし、私企業への依存は、どんな作品が 正しく そして 健全 なのかを決める権利さえ売り渡すということに他ならないのです。ここで、刑法175条を想起する方もいるでしょうが、私企業の検閲的圧力がわいせつ図画のみに及ぶとは限りません。わいせつ図画や反国家的な文書だけではなく、Coinhiveの導入指南書や、性交渉を伴わない同性愛を描いた作品が国家の代わりに私企業によって排除される世界は、残念ながらあまり遠い場所にあるとは思えません。

このような私企業への依存を排除する対応として、暗号資産の利用は一つの解決策になるでしょう。#1#5でお伝えしたとおり、あまねけ!変態美少女ふぃろそふぃ。では決済手段としてその匿名性からMoneroを採用しています。

匿名性の高い暗号資産としては、Monero以外にZcashBEAMGrinなどがあります。中でもBEAMやGrinはデフォルトでは固定のアドレスを持たず、お互いがオンラインの状態で一時アドレスを用いた送金を行う(送金手数料を積めばオフラインでの送金や固定のアドレスでの受け取りも可能)という、他の2つとは大きく異なるアーキテクチャを持っています。

AIのべりすと文学賞のこと

今日から第1回AIのべりすと文学賞の募集が始まったようです。

AIのべりすとは、日本語処理AIでは最大級のパラメータと大量のコーパスによる訓練によって生まれた文章ジェネレータです。出力傾向をプリセットの選択やパラメータの変更である程度調整できますし、特定のテーマや作家のスタイルに寄せることができるMOD機能を搭載しています。関連サービスとしてテキストからイラストを生成するとりんさまアートの開発も進んでいるようです。

まずは、AIのべりすとがどんな文章を生成するのか、実際に使って確かめてみましょう。たとえば、今日のアマネイメージズを使うと、

土手を駆け上がって向こう側を見下ろしたマヤは、同行していたサナに聞こえるように大きな声で喚いた。身体が弱いサナも、彼女の後をついて少しずつ階段を上っていく。頂上までの石段はところどころが欠けているばかりか、塩にやられて全体的に脆くなっている。気を付けないと足を踏み外しそうだなと、マヤは少し後ろを盗み見た。

という冒頭の文章から、

「……っ!」
その瞬間、彼女は思わず息を呑んだ。ちょうど、彼女が振り向くのと同時に、視界の端で何かが動いたのだ。視線を向けた先に居たのは、白い服を着て長い髪をした少女だった。顔立ちからして、年齢はおそらく十代半ばだろう。だが、この状況下で明らかに異常な行動を取っている以上、警戒しないわけにはいかない。マヤは咄嵯に腰に差していた剣を抜き放ち、切先を彼女に突き付けた。
しかし――「……え?」
マヤはその光景を見て、唖然とした。目の前の少女は両手を上げて無抵抗の姿勢を示したかと思うと、そのまま地面に崩れ落ちたからだ。どう見ても戦意はない。いやそもそも、こんな場所で戦いになるはずがないではないか。
「……」
マヤはすぐに剣を収めると、倒れ伏す少女の元へと歩み寄った。近づいてみると、その顔はよく見知ったものだった。

という続きの文章が生成されます。特に調整せず投げっぱなしなので、新しい仲間や想定してない武器が出てきていますね。何度か試すと、突然森の中にいたり、デカい岩に閉じ込められていた回もありました。アマネイメージズのコーナーは、提示した写真を使って同じ舞台で胡乱な話を繰り返すことが多いので、ちゃんとストーリーを進めようとするスタイルとは相性がよくなかったかもしれません。

こんな感じで、冒頭を渡してポチポチ押してるだけで最高の小説が完成するわけではなく、泥臭い調整と乱数の厳選を繰り返す必要がありそうです。つまり、楽に文章を出力するためのツールというより、ストーリーの構築に仕事を振り替えるためのツールといえるでしょう。

小説を書く人の中には「ストーリーは考えておくから誰か文章にしておいてくれ!」と思ったことのある人もいるかもしれません。AIのべりすとなら、書き出しさえ思いつけばとりあえず文章を前に進めることができます。生成された文章が意図しない方向を向いていたら、少し戻してから加筆してやり直せばいいのです。単に文章を書くタスクがストーリーを調整するタスクにすり変わっただけにも見えますが、ストーリーを伝えるために小説を書いているなら、より本質的な仕事に近づいたと考えることもできます。

一方で、AIのべりすと文学賞は「ストーリーは考えておくから誰か文章にしておいてくれ!」という発想を 強制 する取り組みでもあります。これはソナーズのリリースによせて、感想のことで述べたような、小説の構成要素である「全体的なストーリーの面白さ」と「局所的な表現技法の巧拙」から後者のみを排除するものです。この新たなルール設定が有利に働くか不利に働くかは、書く人の目的や能力の傾向によるでしょう。

文章だけではなく、イラストや音楽の分野でもAIによる自動生成技術が発展してきています。しかし、その本質は必ずしも労力を削減できるという部分にはなく、局所的な表現技法の巧拙を度外視して、自らの創造的な面をより深く掘り下げることを求められる部分にあるのかもしれません。みなさんも、自分の中のストーリーに向き合いながら、第1回AIのべりすと文学賞に挑戦してみてはいかがでしょうか。

時間のプログレスバーのこと

今日から2022年の2月が始まりました。

2022年はあと91.2%、2022年2月は97.2%、2022年2月1日は20.8%残っています(19:00時点)。

Twitterでは、月の変わり目や年末によく今年の残り日数のRTをよく見かけます。このアカウントは、自己紹介にあるとおり「毎日0時に今年の残り日数をつぶやくBOT」であり、残り日数とともに。その日数が1年間に占める割合を表示しています。

2022年2月1日になりました。今年は残り334日です。あと91.5%です。
@remaining_days (2022) 1488165237324845056

また、Misskeyという分散型SNSに配置できるカレンダーウィジェットは、日付とともに今日、今月、今年の経過時間と割合をカラフルなプログレスバーで示しています。

Misskeyのカレンダーウィジェット
Misskeyのカレンダーウィジェット

「まだ~ある」と「もう~ない」は同じ事象をどう捉えるかの差について示す有名な例ですが、同じ瞬間であっても、残り時間と経過時間のどちらを示すかによって意識が変わってくるのかもしれません。今年があと何日残っているか、というのはしばしば「今年やり残したことがある」や「今年も毎日を怠惰に過ごしてしまった」など悪い面で持ち出されることが多いですが、一年という区切りに惑わされることなくやっていきたいですね。

自分の残り寿命も頭上にプログレスバーが出ていたら便利だなと思います。経過寿命でもいいです。

アマネイメージズ

砂の道路で
砂の道路で

「ねぇ、やっぱり道路なんかないじゃん!」

土手を駆け上がって向こう側を見下ろしたマヤは、同行するサナに聞こえるように大きな声でそう喚いた。身体が弱くて災害用のリュックを背負うのがやっとのサナも、彼女の後をついて少しずつ階段を上っていく。頂上までの石段はところどころが欠けているばかりか、塩にやられて全体的に脆くなっていた。

サナの歩みに合わせて、欠けた石段の小さな破片がコツコツと転がり落ちる音がする。気を付けないと足を踏み外しそうだなと、マヤは少し後ろを盗み見た。

「やっぱり、おかしいよ。こんなに進んでるのに、街どころか人間さえ見つからないなんて」

「でも、東部標識が増えてきてるし、もう少し進めば……ほんとに、ほんとだから!」

もう三日くらい同じ風景が続いて、マヤは飽き飽きしていた。泣き出しそうになってまで訴えかけるサナの声と表情も、マヤは嫌いだった。彼女の言うとおり歩いているだけなのに、まるで自分が悪いんだと責められている気分になったから。

私たち以外全部沈んだのだ。マヤはそう思いながら、サナには何も言わずに歩いている。砂浜に標識が立っているなら、ここは元々道路だったのだろう。砂漠化したか、海に沈んだか、さもなくばその両方だ。マヤは彼女が時折口にする「東部標識」が何か知らなかったし、自分たちの行く末にとって重要なこととは思えなかった。

「ねぇ、サナ。私たち、やっぱりダメなんじゃないかな」

「でも、行かなきゃ。もう少しで、きっと助かるはず……だから」

「……うん」

それでも、マヤはその言葉を信じるしかなかった。やはり、歩くしかなかった。


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