補助輪付きの無人販売所のこと
同人誌即売会における無人販売所とは、誰かを直接ブースに配置することなく、グッズや同人誌などの作品を販売するスキームを意味しています。必ずしも田舎の無人野菜直売所のようにあらゆる良心を仮定しなくてもよいですし、自動販売機のように高度な業務をこなす機械を導入しなければならないわけでもありません。
無人販売所は、多くの前提や条件でどのように実現できるかが決まります。このような懸念要素には、大きく分けて「来場者」「支払い方法」「作品の種類」があるでしょう。
来場者について考慮すべきなのは、その良心の程度です。全ての来場者(購入者以外も)が不正に作品を持ち出したり、ブースの売上金を盗むことがないと仮定できれば、単に作品を並べて貯金箱を置くだけで無人販売所が完成します。しかし、これは非常に強い仮定で現実的ではありません。少なくとも、売上金については堅牢な構造で保護する必要があるはずです。
支払い方法については、特に現金を使用するかどうかによって実現方法が変わります。電子マネーや仮想通貨で支払ってもらう場合は、単にアドレスを記したURLやQRコードを置いておくだけでかまいません。しかし、現金を使用したいなら、前述の通りワイヤーつきの堅牢な箱などを用いて売上金を保護する必要があるのはもちろん、通用力のある意図した貨幣のみを受け付けるような機構が必要でしょう。
もちろん、さらに 悪い 来場者を仮定するなら、自動販売機のように正しい金額を支払うことを強制するシステムを導入すべきです。
作品の種類については、グッズや印刷版の同人誌を含むかどうか――より正確には、ブースに配置するもの自体に直接価値があるかどうか――で分類できます。キーホルダーやポストカードなどのグッズや印刷版の同人誌は、それらを不正に持ち去っても価値が変わりません(単にQRコードで同人誌のPDFファイルを直接利用可能にしているものも同様です)。
一方、ブースから持ち去ってもそのままでは価値のないものなら、不正に持ち去るモチベーションも持ち去られたことによる損害も最小限に抑えられます。ここでいう「そのままでは価値のないもの」は、例えば作品を購入できる非公開ページのURLを記載したQRコードなど、対価を支払うことで初めて有効になるようなトークンを指しています。
また、作品がポストカードや名刺など軽くて薄いものの場合は、自動販売機の実現が楽になるかもしれません。比較的厚みのある印刷版の同人誌なら、
鍵つきの引き出しを設置して、カプセルトイのような機械で鍵を販売することもできるでしょう。
さて、ここまで無人販売所の実現可能性について考察しましたが、おおまかには来場者の良心に期待するか、自動販売機を導入するかのいずれかです。しかし、見知らぬ来場者全員を信頼するのは難しいですし、自動販売機の導入には大きなコストがかかります。
そのため、
第三十四回文学フリマ東京では、2ブースを半分に分割した監視付きの無人販売所を計画しています。つまり、一方のブースは無人販売所のように仕上げつつ、無人では実現の難しい部分をもう一方のブースでカバーするという形式です。こうすることで、本来は来場者への信頼が必要な手法を安全に試すことができます。
これはいわば、補助輪の付いた無人販売所といえるでしょう。より詳しいことは、次週以降のニュースレターでお話しするかもしれません。